音楽環境の移行完了

覚悟はしておりましたが、やはり音楽環境の移行は中々手間取りました。難しくはないのですが、面倒で重かったです。

KORGとNIとIKの3社のソフトウェア音源を愛用しているのですが、3社ともアクティベーションの流儀が違うので、単純に面倒いです。NIとIKはアクティベーションマネージャー的なものがあるので、多少は手間が軽くはなりますが、KORGは1モジュールごとに「ロッキングコード」と「アクティベーションコード」を手動で取得する方式なので、地道に取得動作を繰り返して使用可能にせねばなりません。

それに比べれば、AdobeのCCは何だかんだいっても、楽ですよネ。ユーザアカウント単位で認証しとけば、後は欲しいソフトウェアをおもむろにクリックして終わりですもん。

‥‥で、「重かった」のは、音源データの容量のことで、限りあるMacBookのSSDの容量を、ごっそり100GB以上消費しました。Logicのライブラリデータをレガシー音源も含めてダウンロードしたのでそれでまず50GB、IKのSampleTank3が33GB、NIのもろもろが20GBくらいで、あとはKORGの音源に少々(昔のシンセのエミュレータなので容量が小さい)。PhotoshopやAfter Effectsのインストールとは違って、少ないディスク容量のノートPCにとっては、中々にパンチが効いております。

結果として、MacBook本体SSDの残り容量が80GBを切ってしまいました。ちょと不安‥‥。外部音声の録音などで高速ディスクの容量がどうしても必要な場合は、将来的にはThunderboltのSSDあたりを考えます。今はUSB3.0の2.5インチHDDでしのぎます。

しかしまあ、よくよく思い直せば、大楽団を薄いノートパソコンに詰め込めるんだから、100GBも致し方無しですネ。ぶっちゃけ、万単位もある楽器音なんて、全く把握できておりません。Logic Pro Xは、昔のライブラリ(Jam Packとか)も全部追加料金無しでダウンロードしてライブラリに追加できますし、IKのSampleTank3も猛烈な数の音源が揃っていますし、さらにはNIの個性的なシンセもフレキシブルこの上ないし(=膨大な音色が作れる)‥‥で、私が20代になりたての頃にRolandのMT-32やYAMAHAのTX-81Zの少ない発音数でやりくりしていたのが、遥か何万光年の彼方に思えます。

以下は最近バージョンアップしたSampleTank3のメーカーサンプルです。‥‥今は、このクラスの音がわんさか入って、2万円ちょいで買えちゃうんですよネェ‥‥(私はクロスグレードで100ユーロで買いました)。これらの音源は、Logic Pro Xはもちろん、Garagebandでも、「Audio Unit モジュール」として使えます。(旧い32bitの環境だと使えない場合もあるので注意‥‥です)

 

音楽環境の移行

私は現在のメインであるコンポジット&ビジュアルエフェクト・グレーディングの他に、私の原画マン時代を知る人からの原画作業依頼、さらには親しい人から頼まれた時のみ、音楽を引き受ける事にしております。音楽に関してはその他、権利上の問題や予算上の都合から、自分らで企画する作品のパイロットムービーに関しては自主制作します。国際法上の権利の切れた旧い作曲家の楽曲を使うにしても、市販CDの演奏を無許可で使うわけにはいかないので、やはり自主制作します。

たまに請け負うような作業スタイルで、調子がもとに戻るのか‥‥と自分でも心配になる事はありますが、実際に作業してみると、意外にも、2〜3時間でブランクは一気に取り戻せるものです。スポーツと違って、絵や音は「頭で作る」ものなので、頭の中の「ソフトウェア」を起動して、さらには現在からのフィードバックによる多少の「アップデート」を施せば、すぐにもとに戻ります。ビジュアルエフェクトやグレーディングをしてても、作画脳や音楽脳の基本プロセスは絶えずバックグラウンドでデーモン的に動いていて、日頃の作業に作用しているので、全くの休眠状態でも無いですしネ。

‥‥あ、でも、演奏は別ですネ。演奏は完全な「リアルタイム身体制御」なので、ブランクの影響はスゴいです。しかし、絵を描く動作や、音符を置いていく作業は、頭さえシャッキリしていれば、ブランクの影響はほとんどありません。むしろ、歳を重ねるほど、状態をクールに客観視できるので、若年の頃よりも洗練される傾向があります。まあ、若い頃の「無駄は多いけれど情熱的な」産物も、代え難い魅力に溢れているんですけどネ。

で、近々、また音楽に関わる可能性が高くなってきたので、旧くなった音楽環境を、ちょうど渡航絡みでi7・16GBメモリのMacBookも調達した事だし、全面的にアップグレードする事にしました。ほとんど電源を入れなくなった2008年のMacProから、処理能力が高い最新のMacBookへと、音楽環境を移行するのです。

業界ではProToolsがよく使われているようですが、私はあくまでLogic派。ドイツ生まれのLogic(ジョブズ時代にAppleがドイツEmagic社を買収して取り込んだのです)に昔から愛着があり、どうせファイナルミックスも含めてスタンドアロンの環境で仕上げる事だし、特に業界標準に環境を合わせる必要は無いのです。エンバイロメントの組み合わせで色んな事ができるLogicの構造に惚れ込んでおるのです。

現在発売されているMacの処理能力ならば、Logicのエンバイロメントオブジェクトを駆使して、日本の住宅事情では収まらないような壮大なマルチトラック音楽環境が、外部音響機器・外部音源を一切使用せずに実現できます。私は数年前にYAMAHAやROLAND、KORGなどのシンセ音源モジュール、長年親しんだコンプや48トラックミキサーなどを全て倉庫に保管して、代わりに、Apple、IKやNI、KORGのレガシーコレクションなどのソフトウェア音源だけで構成するようになりました。入力用にはミニ鍵盤の61鍵タイプを使っているので、さらにコンパクト。

ただ、ソフトウェアオンリーの環境とはいえ、音源を豊富に蓄えた旧環境を新しいMacで再現するのは、中々に手間のかかる作業ではあります。インストーラやシリアル番号はサーバに保管してありますが、それがそのまま現在使えるとは限らないので、手探りでの環境移行になります。音源のライブラリデータ量はかなりのギガバイト数なので、新たにメーカーサイトからダウンロードするのも時間がかかりますしネ。

でもまあ、移行作業さえ乗り切れば、Book型で軽量だけど内容は重厚な音楽環境が作れるので、メゲずに頑張ろうと思います。

ちなみに、Logic Proは今日的なソフトなので当然といえば当然、ムービーを取り込んで再生しながら音楽を作れます。Logicを買うのが金銭的にキツい学生さんは、MacさえあればオマケソフトのGaragebandでも似たよう事ができますので、NIやIKなどで公開されている宣伝用のフリー音源(これがまた良い音出すんですヨ)を付け足して、そこそこ充実した環境を出費ゼロ円で構築できます。その環境で、絵スタートの2秒前(フィルムの3フィート分)の無音の余白を挿入して作業すれば良いです。

‥‥なので、もし入学とかでパソコンを買ってもらえそうなら、映像制作を志す人はMac Book ProかiMacにしておくと(メモリは16GB以上でネ)無難です。何かとMacのオマケ部分が重宝します。‥‥だって、マルチバンドコンプなどのDSPがシステムにプリインストールされてるんですから。WIndowsは分業制の現場では多く導入されていますが、プライベートではMacを使っているプロの人が多いです。少なくとも私の周りは、監督も含めて、Mac率が高いです。‥‥もちろん、私があっせんしたわけではなく、いつのまにやら自然と周りはMacだらけ。ちまたではブランドイメージでApple製品を選択する人も多いかも知れませんが、プロとして長らく映像制作に携わっている人間が、単にアップルマークのためだけにMacを使うわけもなく、使うにはそれなりの「理由」があるんですヨ。

ソフトがあったからって音楽が作れるわけではないですが、ソフトがあれば気軽に音楽制作に触れられるのも事実です。2014年現在は、ムービーサウンドトラック系の管弦楽の祖とも言えるショスタコーヴィチやシェーンベルク、ストラヴィンスキーなどの近代作曲家の作品が徐々にパブリックドメインへと移行していますので、オーケストラスコアも無料もしくは安価に入手が容易、自己研究もしやすくなっています。巨大な編成を持つワーグナーマーラー、リヒャルト・シュトラウスなどのスコアもペーパーバックで安く簡単に手に入る事もあります。トリスタンなんかはKindle版まであります。

こんな幸運な状況の中、手元にLogicやGaragebandがあるのなら、「やらない手はない」ですよネ。

追記)シェーンベルクストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチなどの戦後まで存命していた作曲家はビミョーに2014年現在だとパブリックドメインに属さない楽曲もあるので、楽譜のネット入手にはくれぐれもご注意ください。グレーな場合は、大人しく安価な市販のスコアを買いましょう。
 

中割りについて

ペンタブレットの作画とか、アニメ作画ソフトの話題とかを、端から眺めていて思うのは、何で皆、「中割り」で動きを捉えるんだろう‥‥ということです。中など割らずに、そのままアニメーターが絵を動かせばいいじゃん‥‥と単純に思いますし、私の考えている技法も「中割り」は一切ありません。

「でも、アニメーターが絵を動かすには、中割りが必要じゃん」‥‥と思うのならば、すっかり、思考の根本が「原画・動画」のスタイルに染まり切っているのだと思います。‥‥いや、ごくシンプルに、「絵を動かす方法」を「コンピュータと一緒に考え」れば良いのです。

「じゃあ、3D?」‥‥と思う人もこれまた多いかも知れませんが、3Dのアニメは「3Dモデルを動かして2Dグラフィックスとして演算・出力したもの」なので、「絵を動かす技法」とは別のジャンルです。描き絵にこだわっている人は、あくまで「絵を動かしたい」んですよネ?

中割りする事もなく、3Dモデルを組む事もなく、ただ単に「描いた絵をコンピュータで動かせば良い」んです。思考の根本を、中割りや3Dから切り離して、素の状態から「動かす事」を考え直せば良いだけです。

思考の根本を問い直す‥‥という体験は、昔、音楽をやっていた頃に似たような事がありました。ポップスやロックは、基本的に「旋律と伴奏」で構造を作りますし、イントロ・1番・2番・間奏・3番・エンド(コーダ)‥‥のような編成上の「無言のお約束」みたいなものがありましたが、高校生の頃、「その形式や思考しか許されないのか?」と不思議に思ったのです。「ロックは自由だ」とか言いながら、随分と不自由な形式に束縛されているんだな‥‥とも思いました。温故知新とはよく言いますが、バッハ等の多声楽・ポリフォニーに傾倒していったのは、自由に見えて実はとても不自由なポップス・ロックへの反発だったのかも知れません。

話をアニメに戻して。‥‥本当に不思議に思うのは、なぜ、「中割り」を基軸に考えるんだろう‥‥という事です。動きの「キーポイント」で動きの流れを把握し制御する事と、中割りする事は同義ではないじゃん? ‥‥少なくとも、私の考える技法は、動きのポイントからポイントへの「経緯」であって、「中を割る」という意識は全く無いのです。

つくずく、新しい何かを作るという事は「発明」なんだな‥‥と思います。例えば、「もっと高速に移動する」という欲求があった時、「足のメカニズムに着目し、歩行運動をどれだけ速くできるかを考える」人と、「移動そのものに着目し、車輪を発案する」人の、2タイプがいるように。‥‥同じように、アニメ制作を考える際、「中割りをどうするか」と考える人と、「絵を動かすこと」を考える人の、2タイプがいるのでしょう。

「中割り」「中枚数」「動画枚数」「枚数が多いのはリッチな作品」‥‥という思考や価値観は根強いと思いますし、その延長線上でコンピュータを使う人が多いのは成り行きとして解りますが、その思考が永続的に有効であるかは甚だ疑問です。私は既に「中枚数」なんてどうでも良い‥‥とすら思うのです。決め絵・キーポイントの各々を経緯していく動きは、浮動小数点の演算に任しておけば良いです。

何だか「アニメ時代の幕末」にも似た今、準備段階として、新しい考えに基づく、新しいアニメ作品を志す「海援隊」みたいなコミュニティを作る時期が、そろそろ近づいている‥‥のかも知れませんネ。

CLAMATO

今回の渡航の際、機内食のメニューで「CLAMATO」(「クラマト」の発音で通じます)というトマトミックスジュースを見つけたのですが、わたし的にツボにハマり、帰国してからすぐに通販でまとめ買いで注文しました。ウォッカの割材のように宣伝されていますが、氷を入れてそのまま飲んでも充分に美味しいです。昔風のスパイシーな野菜ジュースが好きな人にはオススメです。

食塩無添加に染まりつつある日本のトマト・野菜ジュースには無い、のどにピリッとくるストレートな辛みと複雑な香味が魅力です。行きの飛行機のタッチパネルディスプレイで見て気になっていたのですが、現地の野菜市場の飲料売り場で見つけて即座に購入し、ホテルの冷蔵庫で冷やして飲んだらとても濃厚で美味しかったです。後に日本のサイトで検索して知りましたが、ハマグリエキスが入っているらしいです。確かに、ボトルラベルには貝のイラストが描いてありますネ。

万人受けする味ではありませんが、昔ながらの濃くてスパイスの効いたトマトジュースが好きな人だったら、私同様、ハマるかも知れません。帰りの飛行機で飲み物ワゴンが巡回するたびに注文して飲んでいました。

日本でも容易に通販で買えますが、現地の倍くらいする価格がネック‥‥。現地だと3〜400円くらい(税別)で手に入りますが、こちらですと、7〜900円くらいするので、国産ジュースのようには気軽には買えないですネ。

ちなみに価格の差ですが、現地では「SUSHI」のファーストフードを頻繁に見かけましたが、日本で300〜400円くらいで買える巻寿司の1人分セットが、現地では10ドル近くして「買う気もおきない」感じでした。しかし逆に、日本では800〜1,000円くらいするようなウォッシュ系のチーズが高くても4ドルくらい、平均で2.5ドルくらいで種類も豊富、チーズ好きにはタマらない価格でした。また、ブラックベリー&ワイルドベリー100%果汁‥‥のような珍しい果汁100%ジュースが1リットルボトルで2ドルちょいくらいで、日本には無い価格と商品でした。まあ、欧米と日本で得意・不得意なジャンルがあるんでしょうネ。欧米の人をスシローに連れて行ったら、その安さと品質の高さにビックリ(=例えば10ドル相当を使って食べられる内容で考えて)すると思います。私がチーズでビックリしたように。

18年間

海外での最終仕上げも終了し、いよいよ帰国と相成りました。現地でBaselightを自在に扱うグレーダーのパトリスは頼りになる存在でしたし、その他、特にトラブルが発生する事もなく終了できたのは、無事何よりです。

今作との付き合いは、遥か18年前のパイロットフィルム制作で、私がAfter Effectsを扱う以前までさかのぼります。その当時、私の使っていたマシンは、Quadra650とGatewayのPentium160MHz近辺のマシン。Photoshopは3か4の頃です。実装メモリは128メガバイト前後で、現在の16〜64ギガの状況と比べて、何倍になるのやら。‥‥色々、感慨深いものがあります。

思えば、その頃から今までの18年間は、長い長い移行期だったのかも知れません。私は本当に、紙に絵を描いて動かすアニメが好きでしたからネ。そんな私が、「絵を動かす本質」に立ち戻り、タイムシートをはじめとした様々なアニメ業界の技法と袂を分かつ決心をするには、幼少の頃からアニメに親しんだ同じ年月が必要だったのでしょう。

これから先の18年間、どのように進展していくのか。「イメージを実現する」小さなサイクルを繰り返して、不可能のように思われていた事を現実にしてきた過去を振り返れば、多少の紆余曲折があろうと、大体、思った場所に行き着いているように思います。ただまあ、私の年齢からして、最後の18年間になるとは思いますが。

 

英語

そろそろ作業の終了する今回の欧米との合作に関しては、日本側プロダクションの担当制作陣が全員英語を喋れる事が、あらゆる場面で有効に作用しました。作品を実際に扱う制作スタッフが英語に通じているのは、とても心強かったです。‥‥私は子供の頃に9年間、英会話教室に通ってはいましたが、基本的には記憶はスッパリ抜け落ちています。スクリプトやプログラムの簡単な英文を用いたマニュアルは読解できますが、会話はまるでダメなので、あらゆる場面で制作諸氏に助けてもらいました。

とは言っても、いつまでも助けてもらう訳にはいかないですし、どう考えても今後の展開として、日本だけをターゲットにしてたら行き詰まるのは確実なので、基本的な英語力くらいは復活させないとアカンでしょうネ。読むだけならば何とかなりますが、英文を作ったり喋ったりするのはハードルが高いです。

今は作品企画上の絡みから、ロシア語とドイツ語をのんびりと斜め読みの気楽さで学んでいるのですが、英語は結構本気で取り組むべき言語でしょうネ。若い人は、たとえアニメ作品の制作者を志していても、英語だけは早期から学んでいた方が良さそうです。世に出たいと思うなら、なおさら。

私も「英語で困る日が絶対に来る」‥‥と思っていましたが、今、まさにソレです。作業においては、通訳の方が間に立ってくれるので問題ないのですが、日頃の生活での会話は片言になってしまいますネ。まあ、それでも最終的には何とかはなるのですが、会話はごく普通にストレスなく通じた方が良いですもんね。

もし新しいアニメーションの新しい現場を作れたら、週に1度の短時間でも良いから、英語の達者な制作さんに協力してもらって、スタッフ皆で英会話レッスンが出来れば良いな‥‥と思います。だってさ、日本にいると、全く英語を喋らずに済んでしまうから、必要だと実感してても優先順は最後尾になっちゃうんですよネ。



 

そろそろ終了

現在作業している作品が完成した暁には、遅いお盆休みがとれれば良いなと思ってましたが、9月のゲームショー合わせの作品を急遽作業する事になったので、のんきな事を言ってられない状況になりました。その他、作業量は少ないですが2本ほど作業が待機しており、11月にはまた新たなグレーディングの作業が予定されているので、お盆休みは10月までおあずけ‥‥になりそうです。

どんな作品でもそうですが、作品制作が終了する間際には、様々な改善点や改良点が見えてくるものです。今作で言えば、ログの運用の利点は大きな収穫のうちの1つでしたが、その運用にふさわしい大画面のチェックモニタを設置する必要性もひしひしと感じました。ログによって高画質を維持した運用ができた反面で、27インチ程度のモニタではどうにも細部まで見渡せず、ラボの大画面投影にて気付く箇所があったのは、何とも心苦しい限りでした。よく見かける大画面テレビを補助モニタとして代用する方法だと、致命的に入力解像度が不足しているので、映画の2K(1920px以上)が収まりきりません。40インチクラスで最低でも2.5Kを表示できて、かつ特性もフラットなディスプレイが欲しいわけですが、‥‥この問題はすぐには解決しそうもありませんネ。 メーカーの今後の4K対応に期待‥‥です。

ProRes4444による運用は高画質ながらも低容量でフットワークも軽く、作業の高速化にかなり貢献しました。いくら低容量とはいえ、Avidの圧縮コーデック(DNxHD)を使用していたら、おそらく至る所で問題が発生していたと思いますが、ProRes4444は惚れ惚れするほどオリジナルDPXと一致しており、運用におけるコーデック上の不安を払拭してくれるものでした。ただし、編集さん側の大きな理解と対応が不可欠なので、まだ一般的ではない運用‥‥とは言えます。
*9月にやるゲーム絡みの映像のフォーマットがちょっと不安ではあります。まさか、今でもAVI納品(昔はゲームムービーはAVIで納品する事が多かった)なんだろうか。AVIはもういかにも時代遅れ(最後の最後でわざわざ低い画質に落とす必要ないじゃん?)だから、勘弁してほしいんですが‥‥。

あとは、やっぱりファイル等の「命名規則は大事」という事をしみじみ実感しました。もう十何年も言い続けている事ですが、やっぱり名前の混乱は、作業の混乱に繋がり、スケジュールの混乱にも繋がります。名前をピシッと標準化できれば、コストの削減に確実に繋がりますネ。無駄な段取りや作業が減るからネ。大袈裟な話では全く無く、ファイル命名規則って、「当人の理性」ひいては「集団の理性」みたいなもんだよネ。

その他、映像表現面でも色々な収穫がありましたが、どんなに機材が発達しても映像表現に関わる人間こそが作品を左右するのだと言う事を再確認しました。実写の撮影、小道具、大道具、3Dのモデルやアニメーション、3Dのカメラ、エフェクト・グレーディング、編集‥‥など各場面で人の手が加わり、作品へと影響していきます。‥‥なので、機材も大事ですが、若い人材の能力をどれだけ高められるかで、今後のプロダクションの盛衰が大きく変わってくるのでしょうネ。

これから先、アニメに限らず映像作品の未来には、様々な展開があるとは思いますが、やはり「1作品ごと必ず収穫を得て、確実に未来の足場にして、前に進む事」が重要です。作品を「消化試合」のようにして発展せずに時を送るのは、「いつのまにか歳をとっていた」浦島太郎にもなりかねません。たとえ、社会システムの消費のベクトル上であっても、「何かしら」を未来につなげるべき‥‥です。

街のスナップ

日本と13時間も時差がある地で作業をしていると、日付の感覚が危うくなってきます。さらには、こちらの人々は朝8時から仕事が始まり夕方には切り上げるサイクルで、気候的にも夜8時でも空が明るかったりするので、体内時計もいつしかこちらのペースにハマっていきます。こうしてブログを書くと、日本の日時での投稿になるので、多少は感覚が戻るのですが…。

私ら作品スタッフが宿泊している周辺は、金融街のようなところで、近代的なビルが立ち並びますが、所々に昔のヨーロッパスタイルの建物が残っており、歴史の積み重なりを感じます。







少し離れた旧市街には、まさにディズニーの古いアニメに出てくるような昔の建物が並び、金融街周辺とはガラリと表情を変えます。








*移動中に撮影したものなので、見上げる構図ばかりですが‥‥。

食べ物は安かったり高かったりです。生鮮市場に出ていくと、トマトが特に安く、日本では考えられない安価(大きなバケツ山盛りで1000円とか)で売ってたりしますし、トマトの種類も豊富です。スーパーマーケットで目を引くのは、チーズの種類の豊富さとその安さで、日本で買う1/3〜1/5くらいの価格でウォッシュ系をはじめとした様々なチーズが買えます。一方、日本では安い肉の代名詞である鳥のムネ肉が2枚で600円だったり、卵が10個パックで300円以上したりと、何でも安いわけではないようです。ムネ肉よりモモ肉のほうが安いのは、日本的感覚からすると不思議です。

日頃は英語とフランス語が混ざった雑踏の中を移動する事が多く、相手も気を使って英語で喋ってくれるのですが、生鮮市場ではほとんどフランス語なので、数字すら聞き取りが出来ません。こちらは税がなんやかんやと20%くらい加算されるので、表示価格ではなくレジの電光表示で支払額を確認するのですが、市場の手渡しによるフランス語のやり取りだと全く額がわかりません。‥‥なので、10ドル超えの場合、20ドル札で渡しておつりを貰うのが面倒がないのですが、反面、どんどん小銭が増えていきます。ハウスキーピングのチップでは到底消費できない小銭の量です。

仕事のほうは順調で滞りなく進行しております。予定通りに数日後には帰国し、9月に入ってからはまた別の「急ぎ働き」の仕事が待っております。まあ、時差の方は、日本にいても「貫徹作業で周囲との時差が発生する」のはよくある事で、都合、「時差を直し慣れている」ので、特にボケる事なく通常に戻せるでしょう。
 

グレーディングについて(2)

グレーディング導入の主旨については、前回書いた通りですが、今回はもう少し具体的に解説してみます。

グレーディングの大きな役割として、「バラつきを抑える」作業があります。実写の野外での撮影は、太陽の日差しの量が映像に大きな変化をもたらしますから、5分前に撮影した時とは微妙にカラーが異なる事も日常茶飯事です。特に朝焼け・夕焼けのロケーションは時間との戦いになります。そうした色や明るさのバラつきをグレーディングで滑らかにするわけです。

「じゃあ、アニメには無縁だ」と思う人もいるかも知れませんが、‥‥果たしてそうでしょうか。キャラはともかく、背景の青空や建物のグレー、木々の緑などは、実はそこそこバラつくものです。微かなバラつきが、カットの表現目的とズレる場合がありますが、それは各完成カットを並べてみて初めて気づく類いの「事前に回避しずらいエラー」なのです。各作業者に「完璧に予知せよ」なんて到底無理な相談です。

しかし、監督のイメージとは離れてしまっているのも事実なので、「じゃあ、どうしようか」という話になります。大体は「今回はあきらめる」という事になるか、「背景の色味を美術さんに微調整してもらおう」という事でリテークになるかも知れません。‥‥ここで勘のいい人はピピッと危険予測が働くのではないでしょうか。「そんな事をしだしたら、他のカットも気になりだして、二次災害、三次災害に及ぶ」のではないか‥‥と。

ですから、グレーディングをもたない現場は、「潔くあきらめる」か「泥沼覚悟でリテーク地獄に突入する」かの2択になります。グレーディングのセクションがあれば、そんな究極の2択〜あきらめる必要も泥沼リテークも必要ありません。「空の青だけ、前後のカットにあわせて」みたいな「カラーグレーディング」が可能なのですから。

またアニメの場合、「色や明るさのバラつきが少ないので、まとまりやすい反面、臨場感の起伏がおとなしい映像になりやすい」事もあります。銃弾が飛び交い爆風が人物を翻弄するような場面、昼光のまばゆい日差しの中でカメラを切り返す場面など、故意に露出やカラーを変化させるようなカット単位のチュエーションには、シーンごとに色彩を区切るアニメの制作システムはあまり向いていません。

しかしグレーディングは、シーンを再生しながら各カットごとに調整が可能なので、「木陰側から見た、日差しを背負った人物のショットは、逆光を強調」するような事も、シーンの流れを目で確認しながら、映像を最終的に表現できます。

以上は、インハウス及びラボサイドで可能なグレーディングの内容です。

インハウスでのグレーディング、つまり、制作プロダクション側のグレーディングは、もっと突っ込んだ映像表現が可能です。私が作業しているのは、まさにインハウスのグレーディングで、従来の撮影やビジュアルエフェクトでおこなっていた内容もカバーする事が多いです。

カラーグレーディングのほかに、マズルフラッシュを作り替える、照り返しを足す、爆発を足す、アクションの臨場感を足す、砂塵・ガスを足す、空気感を足す・引く、特殊な照明効果を加える、(アニメではほぼないですが)時刻を変える・場所を変える、etc... を作業します。

2D、3Dに限らず、特にアクションや戦闘シーンは、作業者のスキルがもろに出る難易度の高いカット内容ですが、作業者の技術キャパとの兼ね合いで、何度リテークをだしても「かっこよくならない」事がよくあります。「その作業者が担当した時点でアウト」という場面‥‥ですネ。一般的な監督・演出さんは、「作業を振り直すのもままならない」状況において、もはや「泣く」しかない状況に追い込まれるわけですが、インハウスのグレーディングチームを「最後の砦」として構えている作品ならば、「泣かずに済む」確率が高くなります。

例えば、起爆の瞬間の撮影エフェクトで、あまり得意じゃない人が以下のような効果をつけてきた‥‥とします。



「何のひねりもない円のブラシ(グラデーション)は勘弁してくれ」「そもそもバンディングが出てるじゃないか」‥‥などとラッシュチェックの時に恨み節を吐いても、スタッフの質も含めて作品のキャパなのですから、致し方ありません。文句を言って思った通りになるのだったら、世界はとうの昔に理想郷を実現しております。

特にこうした「アクション・エフェクト表現」の類いは、撮影フィルタ的なディフュージョンの強弱と違って、表現者の美意識や表現力がモロに出てしまうので、何度リテークを出しても根本的には直りません。(そういう場合は、撮影監督が作業指導して改善するのですが、中々うまくいかない事も多いのです)

そんな時に、「特殊部隊」たるグレーディングチームを配しておけば、監督が「この爆発のエフェクトなんだけどさ‥‥、何とかなんない?」とオーダーするだけで、以下のように「爆発の光っぽく」絵を「表現し直し」ます。



やる人間がやれば、元が単純な円状グラデでも、このように作り替える事ができます。当然、バンディングも除去できます。

もちろん‥‥ですが、(撮影作業ならともかく、この期に及んで)素材をバラで貰うような野暮ったい段取りは一切なしです。あくまで、ファイナルコンポジット後の1枚絵・1つのムービーファイルから作業して、映像表現を監督の欲する内容へと近づけます。ガンアクションが苦手な原画マンの描いたマズルフラッシュも、インハウスのグレーディングを通れば、迫力のあるものになります。

さすがにこのような作業内容は、ラボサイドのグレーディングには要求できません。「カラーグレーディング」とはかけ離れすぎてます。ゆえにインサイド、プロダクション側のチームに頼むわけです。

何か抑揚に欠ける戦闘シーンやアクションシーン、タイムシート通りには撮影しているんだけど何か雰囲気が足りない‥‥ような時に、インハウスのグレーディングチームが監督と距離を密にして、積極的に表現を足していきます。これは運用面でいえば、まさに「スキルの適材適所」とも言えます。スタッフの長所を活かす現場にすれば良いのです。

以上、この他にもグレーディングの守備範囲は多岐に渡るのですが、解りやすい部分をピックアップして説明してみました。現アニメ業界の制作フローでは、「今作品のキャパだからしょうがない」とあきらめていた事も多いと思います。そんな状況の中、なぜ特定の監督だけがグレーディングを使うのか、多少はお解り頂けたのではないでしょうか。「無駄なところ」には、お金は使わないものです。「必要だからこそ、その部分にお金を使う」のです。
 

グレーディングについて

前回にの引き続きになりますが、私は現在制作中の作品の「ラボサイドのグレーディング」を、欧米のスタジオで作業(立ち会い・指示)しています。

欧米のスタジオで作業すると、「広さの感覚」の差を痛感します。ちょっとした場所の広さの使い方が、いちいち羨ましかったりします。ただそれは、根本的な土地面積の差からくる問題なので、「東京の狭さ」を嘆いても致し方ありません。我々日本人は、「狭さ・広さ」に対して、国土の広い国とは違うベクトルで思考しなければならんのですネ。

まあ、仮に「同じ広さ」を与えられたとしても、日本人は違う使い方をするとも思います。‥‥なので、省スペースの日本人的感覚を活かしながらも、欧米流のゆとりのある空間利用も意識しながら、今後の作業環境作りに活かせたらと思います。

私らが作業しているグレーディングルームは、中程度の映画館ほどのスクリーンを有し、まさに映画館さながらのルックで映写されます。業界の方なら想像できるかと思いますが、イマジカの第1試写室と同じくらいのスクリーンの大きさです。



写真ではスクリーンの大きさは解り辛いですが、右端の赤い文字が「SORTIE=出口」の大きな電光表示なので、スクリーンの大きさを何となく想像して頂けるかと思います。15席x3列=45席くらいのシートがコンソール前に配置されているので、小規模なうちうちの試写くらいなら出来そうな広さです。コンソールはサウンド関連とグレーディング関連が2段で並び、その後ろにさらにソファ(監督席のような)などが置いてあります。私らはサウンドコンソールの席に座り、現地のグレーダー(グレーディングの作業者)さんとやり取りをしています。

作品を担当してくれているラボのグレーダーさんは、エンジニアとクリエーターの両面を併せ持ったタイプの人なので、意思伝達が円滑に進み、経験値も高く手際が良いので、ロール(1本の映画は5〜6の「ロール(Roll)」で分割されています)をどんどん消化して予定通りの進行となっています。

‥‥と、今までグレーディングネタを書いてきて何ですが、グレーディングの話題にどれだけの人がピンときているかは、実は「結構少ないんじゃないかな」と思いながら書いています。

なので、規模はともかくとして、アニメにおける「グレーディングの是非」については、今回に限らず、いつも考えるテーマです。

日本のアニメ作品でグレーディングを導入しているのは、ぶっちゃけ、ほとんど聞いた事がありません。なぜ、アニメ業界ではグレーディングを使わないのか、1つ目は「グレーディングがなくても、完成させてきたから」という理由、2つ目は「撮影作業ですらギリギリなのに、グレーディングの作業期間など捻出できない」、3つ目は「充当できる予算がない」、最後の決め手は「グレーディングが何なのか知らない」事に因ると思います。

私らは2007年のスカイクロラなど色々な作品で、グレーディングをインハウスで作業し、ラボサイドのグレーディングにも関与してきました。当該作品の押井監督や西久保監督はその「有効性」もハッキリ認識しているので、それなりの作業予算規模を持つ作品では、グレーディングを「インハウス(=私ら)」と「ポスプロ(=ラボサイド)」の2段で構え、作品を想定した完成度へと導いています。アニメの近作でいうと、西久保監督の「ジョバンニの島」がそれにあたりますが、監督さんだけでなく、コンポジット以降に関係したスタッフや作品完成の最後まで付き合ったスタッフなら、「グレーディングの有無による品質の差」を認識していると思います。

とはいえ、「グレーディングがなくても今まで完成させてきた」のは、まさにその通りです。「グレーディング」なんていうと実感が湧きませんが、例えば「作画監督」「色彩設計」などのなじみの多いアニメ制作の役職に置き換えて想像してみれば、何となくイメージできると思います。「作画監督のキャラ修正がなくても、アニメの映像は作れる」のですが、キャラの顔立ちなどがバラバラになり、作品のクオリティは低下しますよネ。アニメの撮影にも撮影監督の役職がありますが、作画監督が黄色い修正用紙をかぶせて絵を手直しするような「直接的に作用する修正手段」は持っていません。つまり、「映像最終修正の手段をもたないまま、今まで『成り』『結果オーライ』で完成としてきた」だけなのです。

タイムシート通りに撮影しても、完成映像には大幅なバラつきが出ますが、その要因のほとんどが、撮影スタッフの技術レベルや経験値の上下によるものです。「全カットの本撮が揃って繋いでみたら、イメージとかけ離れていた」みたいな苦い経験をした演出・監督さんも多いはずです。

私は過去、撮影監督の役職を劇場作品で経験してきましたが、バラバラであがってくる各カットを編集のタイムラインに並べた時に「ドンピシャリで寸分の狂いのないように予測して作業する」のはハッキリ言って無理です。必ずバラつきます。作業済みのカットを参照しながら作業しても、合わせ・つなぎには、限界があります。指示を出し現場をハンドリングしても、作業者や撮影会社が違う事により、合わせがうまくいかない場合もあります。作画に例えれば、作監がコメントだけ書いて実際に作画修正しない‥‥ような状況です。

グレーディングはまさにそこの部分、「イメージとかけ離れてバラついた映像を、自分の考える本来のイメージに出来るだけ一致させる」事ができます。迫力に欠けるアクションシーンやメカシーンも、叙情の足りないシーンも、サイクルに時間のかかる撮影リテークではなく(リテークしても良くなる可能性が低い場合もありますし)、直接的に映像を修正する事により、演出意図に近づける事ができます。グレーディングの「本当の威力」を知っている監督さんが、グレーディングを必ず自分の作品に組み込むのは、ちゃんとした理由があるのです。

私だったら、仮に自分の監督する重要な作品において、グレーディング行程がないなんて、あり得ません。作監修正なき作画を容認するようなものです。撮影監督では全カットの映像に直接修正を入れる(指示ではなく直に画像を修正する)など不可能な取り組み・段取りですが、グレーディングではそれができるのです。

まあ、現在の運用意識や実際の予算・スケジュールでは、ほとんどの作品がグレーディングを導入できないとは思います。しかし、既に何年も前から活用している監督さんがいて、作業予算もちゃんと設定されているのも事実です。

つまり、監督やプロデューサーの意思〜作品に対してどのような完成像を抱いているか〜によって、グレーディングの是非も甚だしく変わってくるのでしょう。

できれば近いうちにオリジナルの映像を使って、グレーディングの具体例を解説できれば‥‥と思っております。


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