近未来の作画環境を考える

Apple Pencilにも随分と馴染んできて、ほぼ自分の思うように扱えるようになってきました。軽いスケッチなら勿論、本番の作業にも十分使えることも実感でき、今月から実際のレイアウト作業でも使い始めました。よく考えて描いたつもりだったけど、やっぱりもう少しカメラを寄りたい‥‥とか、レイアウトの推敲の際に、コンピュータの容易な拡大縮小・回転・湾曲操作が、とても使い勝手が良いのです。事実、去年に紙の上でレイアウトを描いた際に、「しまった。紙だと拡大縮小は書き直し(かコピー貼り付け)になるんだよな‥‥」と当たり前すぎることで、いちいちストレスをためておりました。

私のメインは、先達の皆さんの評価も高い「procreate」です。ジェスチャーを覚えちゃうと、サクサク作業が進みます。描いた絵はフォルダ(グループ)にまとめて「共有」コマンドを実行すれば、何十枚でもまとめて一度にAirDropできちゃうので、「当面は」作業を切り抜けられます。組織的で高回転の現場になると、AirDropに頼ること自体がNGになってくるとは思いますが、とりあえずは大量転送は可能です。

私は、自宅では20段切り替えのLED照明に、クリップライトを10連装して部屋中に設置した間接照明、さらに手元をめちゃくちゃ明るく照らし出す直接照明‥‥といった感じで、自宅作業場の照明の環境を作っています。紙と鉛筆の絵、Apple Pencilでの絵、スプレーブース、プラモデルなどの工作、After Effectsなどの映像制作作業‥‥とかなり無茶な組み合わせを全てカバーできる環境にするため、過度とも言える照明のバリエーションが必要だったのです‥‥が、実際の分業におけるプロ現場ではそこまでする必要はないですネ。

ただし、今までの室内照明の「現場の常識」は、大きく変わってくるのは確かです。

では、どのような作業環境が良いのでしょうか。実際の私の職場の作業環境は、撮影やビジュアルエフェクト、グレーディングなどをおこなう環境で、作画もおこなっているのですが、これがまた、iPad Proでの作画作業に程よくマッチするのです。

イマジカさんやソニーPCLさんのグレーディングルームや試写室、ブルーレイをプレビューする際のスタジオなどは、当然ながら、「絵が最良に見える環境」を揃えているわけですが、機材のポテンシャルはとりあえず置いといて(1台数百万円の機材の話を今ここでしてもしょうがないですからネ)、部屋の構成、つまりファニチャーや機材の配置にも神経が注がれています。

もちろん、私の職場でも照明や機材配置には「できる限り」神経を注いでいて、例えば、作業者を背中合わせに配置するようなことは避けたり、間接照明をメインにしてディスプレイへの映り込みやカブり(アニメ撮影で言うところのフレアです)が出ないように工夫しています。

この作業環境への配慮が、iPad Proの作画作業にもそのまま活きてきます。

例えば、4Kの作業も可能な、iMac 5KとiPad Pro&Apple Pencilでの作業環境を想定すると、下図のようになります。



1500ルーメンクラスの電球色LEDは、2016年現在でもまだまだ高価(3000円前後)なので、手頃な500ルーメンクラス(800円前後)を6個くらいで構成しても、明るさはなんとかなります。当然ながらクリップライトの数は増えるので、配線を綺麗にするハードルが上がっちゃいますけどネ。間接照明は、光のボルテージが大きく損なわれるので、直接照射にしたい誘惑に駆られますが、そこは踏ん張りどころです。工作技術を持っている人なら、100均の部材を使ってクリップライトの前にディフューザーを自作して、電球の光が直に照射されないようにしても良いですネ。

随分暗いところで作画するんだな‥‥と思う人もいるかも知れません。しかし、iPadそのものが発光体であり、デスクライト無しでも絵がちゃんと見えるわけですから、手元を照らす照明は最小限でよいのです。今までのデスクライトの照明や天井に設置された強い光の蛍光灯は、作業をおこなうディスプレイに様々な害をもたらします。

一番キツいのはコレです。



こんなんで、絵は描けないですよネ。今までの「机を明るく照らす照明」はかえって害をもたらすのです。

ただ、真っ暗な映画館みたいなところで作業するのも、iPad以外が何も見えなさ過ぎて、室内を移動することすらままなりません。なので、ビデオプレビュー室(ブルーレイなどの最終状態をチェックする部屋〜薄ぼんやりとした暖色系の間接光)くらいの照明にするのが、妥当と思われます。

こんな感じで、間接光だけで部屋を照らしだせば、iPadやPCモニタへの映り込みは最低限に抑制できます。



おそらく、全体像としては、1つの机にiPadもメインPCも集約すると、下図のようになるかと思います。コンピュータ機器常用とはいえ、アニメの撮影セクションと違って、「絵を描く姿勢」がちゃんと確保され、かつPCの作業も可能である点が特徴です。



かなりコンパクトに収まりますが、上述したように、各人を背中合わせに配置するのは、お互いのモニタが映り込み合うので絶対にNGです。実際に経験してみればすぐに分かることですが、後ろの席のモニタが自分のモニタに写り込んで、ストレス爆発です。

「iPad ProとApple Pencilを買って、PC一式も買って、作画机に詰め込めばいいんだろ」的な発想は、残念なリーダー・経営者の考え方です。新しい機材を導入するのは、新しい作業形態を手にして、事業における新しい展開を望むからですよネ? ‥‥だとするならば、生産非効率な作業現場にしてどうするんだよ‥‥というハナシです。むしろ、より一層、生産的な現場を目指すべきでしょう。国内外のスタジオ見学をして、現場構築の見識を広めるのも、リーダーの役割の一つですヨ。

アメリカやカナダのスタジオ見学をしても、国内ラボのお金をかけて整備された各種スタジオを見ても、どれほど自分らがそれを実践できるのか。見学したって無駄じゃのないの?‥‥と思うかもしれませんが、そうして結局何もしないから何も変わっていかないのも事実です。ダメなことを理由にして行動しない人は、何か良い機会がやってきた時に、そのチャンスを活かせず、今度はチャンスを活かせなかったダメな理由を語り、ネガティブフィールドをループし続けるものです。

広大なスタジオ面積、プロ向けの高価な機材、オシャレなファニチャー。‥‥そんなところに憧れるから「自分たちはダメだ」と心が折れるのです。そりゃあ、良い要素は1つでも多い方が良いですが、無いものに憧れて何が進展するのでしょうか。

室内の小さい実面積、コンシューマ向けの機器、オシャレじゃないファニチャー。‥‥それも、工夫次第だと思います。

例えば下図は、紙と鉛筆、iPad&ApplePencil、PCでの映像制作を併せ持ち、かつ背中合わせにしないレイアウトの一例です。


・作画机は広々としたスペースを保ち、背後のラックに4〜5Kクラス(イラストは5K iMac)のPC一式を設置
・黒いプラダンなどでスチールラックの裏打ちをすれば、反射防止のパーティションになる
・作画机にPCのサブモニタをHDMI配線でアームで設置しても良い〜その際はワイヤレスキーボードで


通常、PCを複数台使用する際は、横に並列しますが、「絵を描く作業とPCで映像制作する作業は同時にはおこなえない」こと(カラダは一つしかないですからネ)を考慮し、縦に機材を配置する方法です。

この方法は、背後のスチール棚がPC机とパーティションを兼ねるので、映り込みを防止し、PCのラックにもなります。また、汎用の棚として、ロッカー、本棚、立体モデル(プラモやフィギュア)、ガジェット(iPhoneやKindleなど)置き場にもなります。

実は、私の作画環境は、これに近い環境です。なので、使いやすさの実感があります。

「いや、これでも場所をとってる。小さい場所にできるだけ数をツッコみたいんだ」という人もいるでしょう。でも、そういう人はコンピュータ運用を諦めてください。そういうことを言う人はまず、コンピュータの排熱の強烈さをご存じないのでしょう。上図の1ユニット(作画机&スチールラック)でも最小クラスなのです。上図ですら「もっと小さく」という経営者は、閉所にPCと人を詰め込むだけ詰め込んで、夏場に熱中症で作業者がどんどん倒れて、労災で訴えられればよいのです。

ちなみに、電球や蛍光灯は極力、LEDにリプレースします。白熱球なんてとんでもない‥‥。コンピュータがひしめく部屋は、電力消費の激しい部屋でもあります。以前も書きましたが、間接照明はLEDで高ルーメンのもの、掃除機は充電式、サーキュレータ有効活用とこまめな温湿計の設置による空調制御などが、生産性向上の必須条件となります。人が快適に作業できる室内環境は、コンピュータの故障率も低くなることを常識として知るべきです。


*私の作画机の蛍光管(では無いけど)はコレ。800ルーメン。蛍光灯型のLEDも、今は明るく蛍光灯と遜色のないものも発売されています。ワット数は15W系で8Wなので、熱さが軽減されるのもウレシイです。

また、先っちょのとんがらないダメダメな電気鉛筆削り機は撤去し、前々から愛用しているダーレの手回し鉛筆削りだけにしました。鉛筆の登場回数が少なくなったのと、「鉛筆は鉛筆であることの表現力」に重点をおくために、高品質な芯先ができる手作業の削り器の方が必要なのです。あとは、瞬時の電力消費がコワいのも、電気削り撤去の理由でもあります。


*キュートな外見とは真逆の、鋭い削り方が可能な、ダーレの133。芯先の鋭さの調整も可能です‥‥が、我々は当然、「一番鋭い」調整ですネ。M+Rというドイツメーカーから同型がOEM(だと思う)で発売されています。



*さらに尖らせたい時は、KUMのオートマチック(手動ですけど)でキマリです。


私は、iPadとApple Pencilで絵が描けるようになったから、それに切り替えよう〜みたいなビフォーアフター2元論にするつもりは毛頭ありません。一定ファン層だけでなく、潜在的な顧客も含め、幅広い層にアピールする作品作りをしていきたいですし、それが可能な作業環境を追い求めていきたいとも思います。尻馬に乗るような軽率な判断ではなく、紙とデータの「良い部分」を活かすことのできる環境が、まさにプロのなせる技の環境です。

iPadでプロアマ問わず誰でも「デジタル作画」が可能な時代。だからこそ、絵を動かしてお話を作るレベルまで達することのできるプロ現場のユニークさとアドバンテージが活きてくると思います。であるならば、一般の素人さんが絵を描く環境や、静止画だけを描く環境と、「絵を動かす映像のプロ」の環境は大きく違って然るべき‥‥だと思うのです。


脚注)1*今回の図説イラストも、Apple Pencilによるものです。ここ1ヶ月で200枚前後描いてみて、随分馴染みました。清書とかもしましたが、バッチリ思い通りになります。‥‥おそらく、現役のハイテクニカルな動画マンなら、相当綺麗な線が引けるはず‥‥です。私は、紙と同じくらいにApple Pencilで線が引けることを確認しましたが、私自身、線は決して綺麗な方ではないので‥‥。

脚注)2*iPad Proはとにかく、薄くて、作画机にしっくり馴染むのが、良いよねェ。Cintiq時代には感じなかったフィット感です。50枚書いても紙で机が氾濫することはないし(本人の整理整頓の資質にもよりますが)、消しゴムカスが紙にひっついたり、机を汚すこともないし。‥‥言わば、紙も消しゴムカスも増えない、作画用紙ですネ。

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