未来のペイント

現在のアニメ業界は、ほとんど全てが「レタス塗り」、いわゆる線画を二値化して流し込みのペイントを容易にして、撮影で二値化のジャギーを消す処理(スムージング)をおこなう方式で、劇場もテレビも制作されています。

しかし、今から10年前くらい前は、「アニモ」というソフトがあり、二値化をせずに、線画の繊細なニュアンスを殺さずに活かしたままペイント作業をおこない、そのニュアンスを活かしたまま撮影もおこなっていました。トレス線の下にベクターによる領域を生成しペイントをおこなう、先進の技術を有したアニモは、線のニュアンスが活きることから、「デジタルアニメーション」初期の劇場アニメに用いられ、私の参加したBlood(2000年の短編劇場アニメ)とイノセンスでも、その線の繊細さを味わうことができます。マジックペンのようなレタス式のトレス線に比べて、アニモの階調トレスはアニメーターの筆致が活きる優れた素養を有していました。

残念なことに、アニモはライセンス料が高かったことが何よりも敬遠され、やがて業界は現在のレタス互換方式の二値トレスに染まっていきました。2004〜5年頃から「デジタルアニメーション」に新規参入した各社がレタス互換のペイント方式を採用していったことも大きかったのでしょう。

ここまで書くと、何だかレタスが低性能で悪者みたいな聞こえ方になってしまいますが、そんなことはなくて、レタスのマジックペンのような描線が適した作品も数多くありました。アニモとレタスの両方でテストして、「レタスのほうがしっくりくるね」と評価された作品もあったのです。
*それに、レタスのソフトウェアには二値トレスだけでなく、他のトレス方式もある‥‥のですが、「レタスといえば二値トレス」というくらい、印象が固着してしまいました。

問題は、業界がレタスの二値トレス線一色に染まりきってしまったことです。右を向いても左を向いても、似たような二値トレスしか存在しません。しかも、本来、多彩な筆致を表現できるペンタブ作画においても、二値トレス線は継承され続けているようです。‥‥まあ、これはちょっと考えれば理由は簡単で、旧来との作業及び作風の互換性を図るためには、ペンタブの線質の多彩さなど「不要」というわけです。‥‥ちょっと寂しいですネ。

レタスが悪いわけでもないし、二値トレスも作風次第で威力を発揮するトレス線なのですが、今はもう、「二値トレス以外はトレスにあらず」という雰囲気で、限定された描線の選択肢が息苦しくて仕方ないです。自分の描いた原画が工程を経て、自分の撮影入れとして回ってくると、「やっぱりこういう線になるよなあ」と、感情表現に乏しいトレス線に少なからず落胆します。アニモの時は、動画スタッフの描いたその線の繊細さに惚れ惚れするほどだったんですけどネ。‥‥いや、今でも紙に描かれた動画は、驚愕するくらい線が細く繊細で美しいものも見かけるんですけど、その繊細さがワークフローの都合で、ねえ‥‥。

私は未来、「二値トレス一択」の状況から脱皮したいと思っています。「一択」でない技術基盤を作りたいです。

なので、アニモの高い技術の1つ、ベクターで領域を自動生成する処理モジュールは、今は喉から手が出るくらい欲しいです。私はそれと同じことを現在ほとんど手作業でやっているので、このままだと生産上のネックとなるのは明らかです。トレス線の下にベクターの領域を隠し、彩色していない領域は数字で示され、各色は如何様にもパレットでシーンごとの変換が可能(色置換ではなく、カラーオブジェクト的な扱いをするのです)。オブジェクト指向のペイントソフトウェア! ‥‥なんともエレガントなソフトウェアだったのに‥‥ね。

何度も書いてきていることですが、私の着々と準備を進める新型のアニメ制作方式は、人間の考えた動きに合わせて(=これがミソなんです)、コンピュータで絵を動かす技法なので、ペイントの枚数はかなり少なく済みます。動画枚数という概念が消えるので、仕上げ枚数という概念も消えます。その代わり、1枚にかかる労力は現在の比ではなく、様々な技術と知識が必要な作業となります。もちろん、作業費の方も、比例して‥‥です。

前にも出した画像ですが、以下のようなニュアンスがふんだんにペイント作業にも盛り込まれます。




絵が動いて、物語が出来上がる。そのために必要なことは何なのか。

しかもコンピュータが発達した現在において。

‥‥線画を二値化してペイントして、背景と組み合わせて撮影すればアニメができる‥‥だけが答えとは到底思えないのです。


下図は、教材用に作ったサンプル画像ですが、トレス線の差、さらには、その線の差によってキャラの風合いがどれほど変わるか‥‥をデモしたものです。同じ下書きから起こしたもので、線がデザインに深く影響を及ぼすことを示唆しています。


今の二値トレス&簡略表現の方式。あっさりスッキリの処理は、「アニメ絵」の定番ですネ。「とはいえ、いくらなんでも愛が無さ過ぎだろ」とか思われるかも知れませんが、それはどうにもスミマセン‥‥。もはやこのスタイルの描線とキャラの処理に、私自身、愛を注げなくなってきている自覚があるので、どうしてもアッサリ味になってしまいます。二値トレス線の味の扱いで言ったら、若い人でもっと上手い人はたくさんいるので、今さら私が参入しても何も響かないと思うのですよ‥‥。ちなみに上図は、1.5Kで作業したものを2Kにアップコンする「現在のよくある」方式で作っており、少々ボケて鮮明度に欠けます。



これは階調トレスバージョンです。拡大してみると、線に表情があるのがわかります。私は、線と向き合って対話しながら描くような、どこか日本画のようなスタンスが好きなのです。ちなみにこれは4Kで作っており、4Kの再生環境を念頭に置いたスタイルです。画像をクリックして拡大してみると、線が粗めなのがわかりますが、これはA4のテキトーな紙に描いたがゆえで、本番であれば、最低でもA3相当で作画することが必須です。‥‥まあ、こういうグジグジ線で作ってみるのもありかも知れませんけど。



これは階調トレスをベクタートレスに変換したバージョンで、ガッツリ輪郭の切り立った描線が特徴です。拡大して見比べると、違いがよくわかります。ペン画にカラートーンで仕上げたイラストのような雰囲気です。この絵は少々荒いですが、元絵を丁寧に描いて、ベクター変換した時の綺麗さはかなり強力です。ちなみに上図のオリジナルの寸法は6Kで、解像度に縛られない点もベクタートレスの強力な特徴の一つですネ。これだったら、8Kも16Kもイケますが、まだ8Kはマシン的にキツいかな‥‥。


このように、トレス線の差、ペイントの差、それに呼応して、そもそもデザインの差、さらには、その絵を用いてどのように画面を作り上げるか‥‥という、様々な選択肢、分岐路が豊富に存在します。アニメは全く行き詰まっておらず、むしろ、「なんだ、まだアニメには山ほど、手付かずの可能性が目の前に転がっているじゃないか」と思うのです。

二値化された領域に色を流し込むのではなく、まさに「絵を塗る」作業を求められるのが、私の考える未来のペイント作業です。

私は、「美しいものが見たい」‥‥結局はその一心なのかも知れません。若い頃ははっちゃけたものが好きでしたが、歳を食ってからは、美しいものに強く惹かれるようになりました。

Apple Pencilを手に入れたら、もっと幅広い美しさが広がるだろうと期待しています。


 

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