鉛筆と未来と

私は今でも大切に鉛筆を保管しています。特に真っ黒な線を描けるペンテルの「999」はデッドストックとして倉庫で眠っています。

 

なぜ鉛筆を保管しているかというと、また使う機会を考えているからです。思い出のためだけにとってあるのではないです。‥‥とは言え、その復活の機会は、おそらく私の晩年の頃になりましょう。

 

私は2013年まで鉛筆活用の可能性をしぶとく探っていました。しかし現在は、鉛筆から離れて、Apple Pencil 100%です。

 

なぜ、鉛筆から離れたのかと言うと、鉛筆の美点・長所を真に活かそうとすると、

 

  • まず、鉛筆をあえて使う以上は、ニュアンスを保つ諧調トレスが必要だが、現場の作業工程が消滅してしまった
  • 鉛筆の黒鉛の粒子と紙の繊維の大きさが4KターゲットだとA4用紙では相対的に小さ過ぎる
  • 解像度を上げると、スキャン時のゴミ取りなどの現実世界の要素が障害となる

 

‥‥などの様々な問題が浮き彫りになったからです。

 

特に用紙サイズの拡大は、運用上の痛烈なダメージを容易に想像できました。ただ、私の主眼は、次世代の映像技術でアニメを作り続けることだったので、Apple PencilとiPad Proの登場によって、鉛筆から道具を切り替えたのです。4Kにおいては、鉛筆そのものよりも、「かつては鉛筆が生み出していたような」ニュアンス豊かな描線が必要です。

 

一方、2Kの旧来の現場においては、業界全体が「諧調トレス」を捨てて「二値化トレス」を選択した時点で、「鉛筆である技術的な理由」は喪失していたと言えます。「PC&ペンタブの導入コストは高価」「デジタルデータのフローが未発達」という運用上の理由で、導入&維持コストの安い紙と鉛筆が重宝されてはいますが、今後どうなるかはわかりません。

 

 

 

鉛筆は、ニュアンス豊かな表現を可能とします。鉛筆画というジャンルがあるほどです。

 

しかし、2000年代後半に、鉛筆のニュアンスを活かす「諧調トレス」は急速に減少しました。そして、現在の一般的なアニメ制作現場ではほぼ全てが「二値化トレス」一色です。

 

標準的なアニメ制作現場の150〜200dpiでスキャンして二値化して中間トーンを切り捨てる方法は、例えるなら、美味しく作った料理を一旦冷凍してレンジで解凍するようなプロセスです。カチンコチンに冷凍するわけですから、流通上の都合は良いですが、味は結構落ちます。

 

鉛筆の熟練者なら、恐ろしいほどに繊細でシャープな線を描画できますが、二値化&スムージングのプロセスで鉛筆のニュアンスはダメージを受けます。

 

■拡大図(かなり拡大してます)

 

スッと抜ける滑らかな線も‥‥

 

 

二値化により‥‥

*かなり拡大しているので、二値化自体にアンチエイリアスが入っておりますが、実際はパッキリとした二値です。

 

 

たとえスムージングをかけても元に戻ることはありません。「抜き」の滑らかな先端は、もはや消えて無くなりました。

 

 

処理前後比較

 

 

二値化&スムージングがもたらした生産性よって、2000年代後半から現在まで、夥しい数のアニメを量産することが可能になりました。2000年代後半の爆発的なアニメ作品数の増大は、効率的な二値化&ペイントも大きな理由の1つでしょう。二値化の功績は計り知れないものがあります。

 

しかし、失った品質も表現も相応に大きかったのです。あっけらかんと割り切ったデザインの絵柄が増えたのも、もしかしたら、二値化で染まった描線の影響もあるかも知れません。描線のニュアンスが豊富じゃないと、様にならない絵も存在しますから、自然と二値化で様になる絵柄に傾いていった‥‥とも思えます。

 

 

もし可能なら、グレースケール(=諧調トレスのまま)で400dpiでスキャンした鉛筆画を、5KのiMacで「ドットバイドット」で見てください。描き手の勢いで描線が走っている原画のスキャンのほうが違いが解りやすいですが、とても綺麗な動画でも違いは見分けられます。「今までPCモニタやテレビで見てきたのは、随分と変わり果てた鉛筆線だったんだ」と愕然とするはずです。描き手の呼吸まで伝わるような詳細なニュアンスを実感すれば、「まだ鉛筆そのものは死んでない。生きている!」と嬉しくなるでしょう。

*ちなみに、27インチで2.5Kのモニタでドットバイドットでみても、鉛筆の凄さはわかりにくいです。27インチで5Kの「高詳細液晶パネル」で鉛筆画をみてこそ、繊細さと豪快さが同居する「真の鉛筆のチカラ」が解ります。

 

でも、現在のアニメ制作技法では、グレースケールで400dpiでスキャンした鉛筆画そのまま(=階調トレス)のニュアンスでフローするなんて、実質上無理ですよネ。そもそも諧調トレス工程の確保が難しいです。単価の問題も深刻でしょう。

 

 

 

とは言え‥‥。

 

鉛筆の死に悲しめど、描線の死に悲しまず。

 

描線のニュアンスを犠牲にして、猛烈な生産性を得ようとしていた時代に、鉛筆を使う人々は「自分らの管轄外の出来事」として、多くの人が「諧調トレス廃止、二値化トレス導入」の流れに対して関心や興味を示しませんでした。

 

諧調トレスの消滅が、鉛筆にとって何を意味するのか、具体的な技術的内容を理解できていなかったのかも知れません。しかし結果はどうであれ、鉛筆が鉛筆である大きな意義が失われるその時に、鉛筆をメインの道具として使う人々はあまりにも無関心過ぎたのは事実です。ペンタブでも代用がきく流れを、間接的とは言え許容したのです。

 

現在、鉛筆に期待される能力は、「二値化に最適なトレス線の入力装置」であって、鉛筆の表現力の幅など期待されてはいません。動画注意事項も、まさに二値化に合わせた内容に変化していますよネ。

 

 

現在、ペンタブが徐々に台頭し、鉛筆の存在が脅かされる不安を感じる人もいるでしょう。

 

その昔、トレスマシンにムラなく転写される(鉛筆のカーボンに反応する)鉛筆線が求められたように、現在は二値化&スムージングに最適な描線が求めらるのなら、鉛筆に限定する理由はなくペンタブでも可能です。不安は的中するかも知れません。

 

一方、現在はまだまだ鉛筆が主流でペンタブ作画など業界全体から見れば十数%程度だ‥‥という人もおりましょう。

 

しかし、現在の主流である「仕上げ以降がコンピュータプロセス」という技術運用スタイルだって、1996年当時は10%はおろか、数パーセントに過ぎませんでした。今が何パーセントだから云々‥‥なんていう論調は、何の未来予測にも繋がりません。世の中の色々なものが、昔は数パーセントの普及率だったことを思い出せば、現状のパーセントのままで未来を推し量ることはできません。

 

 

 

私は‥‥と言えば、現在Apple Pencil 100%です。しかし、二値化ではなく、諧調トレスです。2013年に諧調トレスにおける鉛筆の運用を断念しましたが、諧調トレスは全く諦めていないどころか、現在の私の主流ですらあります。4Kのキャンバスで威力を発揮する基礎技術として、諧調トレスは復活します。

 

例えば、Procreateは、描線の濃淡や細さ太さをダイナミックに表現できるだけでなく、テクスチャやムラが描写の動作に反応する様々な機能が盛り込まれています。ハード&ソフトの相乗効果によって、様々な描線の表現による作品が生み出されていくものと確信します。

 

 

もし、鉛筆が好きならば、「作画村」の中で祈り続けるのではなく、「作画村」を内包する「アニメ村」、さらに大きな「映像村」まで「作品における鉛筆の有用性」を強くアピールし、「たしかに鉛筆だと、作品が面白くなる」と皆に思わせる必要があるでしょう。「自分が好きだから」という理由だけでは、世界は動きません。

 

二値化トレスの入力装置に甘んじているだけでは、鉛筆は他に作業を奪われましょう。

 

鉛筆は作画のテリトリーだからと、近視眼的な作画限定の視野で捉えるのも、ジャッジミスを繰り返す原因となりましょう。

 

鉛筆が未来の映像技術で生き残るには、まさに「鉛筆だからこそできる」大きな何かが必要です。‥‥その「何か」は、鉛筆の強さを熟知する当人が見つけ出すほか、ないでしょう。

 

 

 


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