HDR

HDRには、HDR10やHLG、DolbyVisionなど数種類あり、現在の民生テレビの対応状況を検索していたところ、やっぱりといえばやっぱり、「HDRは不要」論なども検索結果で見かけて、「どんな時代でもそんな人」はいるんだな‥‥としみじみ思いました。SDからHDに移行した時も、「テレビはSD(720px)で十分。HD(1920px)の高画質はオーバースペックで不要だ!」と言っている人を数多く目撃しましたよネ。‥‥そういう人って、今、HDの仕事をどんな面持ちで受注しているんでしょうネ。

 

HDRは、自動車で例えれば、馬力とトルクが格段に向上することを意味します。つまり、日頃使い、街乗りの「パワーの余裕」が生じるのです。勾配のキツい峠道も楽々走行できますし、空気の薄い高山を貫くハイウェイでも息切れなしで高速走行できます。

 

HDRは、何も、街中を120kmで暴走するためにパワーやトルクを与えられているわけではないです。‥‥まあ、もちろん、狭い生活道路をこれみよがしに暴走したい人もいるかも知れませんが、どんなにパワーに満ち溢れていようと、やはり街中では40〜60kmで走るのがヨロしいです。HDRは、有り余るパワーとトルクにより、取り回しが俊敏で5人乗車でも性能不足を感じさせない「乗用車の新基準」に例えられます。

 

一方、今までのSDRは、いわば1950年代の自動車で、プアパワーであるがゆえに、街中を60kmで走っている分には問題ないですが、峠道ではオーバーヒートの連続、街中では信号待ちから発進の流れにおいて動作がトロく、4人乗車しようものなら格段に走行性能がダウンしていました。

 

私の好きなスバル360。可愛いですが、馬力は16馬力。

 

 

ちなみに現在のヤマハのこのスクーターは15馬力で、馬力はほぼ同じ。

 

 

つまり、馬力やトルクというのは、街中を暴走するための性能ではなく、余裕をもって車を操作するための「安心性能」ということです。

 

話を映像に戻すと、SDRは緑の発色が著しく劣り、特に「緑色の表示系」はSDRの発色の限界の影響をモロに受けていました。緑に限らず様々な色相でも、映画館のフィルム上映の時より格段に色が濁っていました。

 

要は、オリジナルのクオリティが、SDRの色域によって大幅にカットされていたのです。本来の美しさを損失していたわけですネ。

 

しかし実際のところ、SDRのDVDやBDしか手元になく、テレビもSDRなら、「こんなもんだったけか‥‥」と納得せざる得ないです。単純に、比べようがなかったわけですから。

 

馬力もトルクも少ない自動車に毎日乗り続けていれば、

 

峠道でオーバーヒートするのはあたりまえ

スタートストップやターンの挙動が緩慢なのはあたりまえ

 

‥‥というわけで、すなわち、

 

色が濁っていても、それしか見てなければ、そういうもんだと思う

 

‥‥ということです。

 

 

 

しかしHDRが登場して、SDR時代の負の側面〜オリジナル品質の損失・損傷〜を、飛躍的に抑制することが可能になりました。HDRによるフィルムアニメ作品の画像・映像データを見ると、「映画館で見た時の印象に近い」感じ、もっと言えば、「撮出し部屋で見たセルや背景のプリプリ感=発色が濁っていない」記憶の印象に近いんじゃないか‥‥と思いました。

 

ただ、現在の「デジタルアニメーション」は、sRGBやRec.709色域でデータが作られているのでもともとレンジが狭く、「オリジナルの色域の品質」が低いです。ゆえに、HDRコンテンツにする時は、HDR色域に対する新しい要素(演出的なテコいれ)、HDRグレーダーの表現力に依存することになります。

 

そして、これから作る4K HDRのアニメ作品においては、潜在的な色の表現力が格段にアップした環境で、あくまで人間の美意識に基づいて色彩を表現することになりましょう。

 

300nitsですら、100%の白は見ていて眩しすぎて疲れます。「自分の眼は何でも見れる」からと言って、太陽を何分何時間も裸眼で直視する奴はいまい? 街中を時速180kmで暴走し続けるようなアホなHDRの使い方をする必要は全くないのです。

 

いくら300〜1000nitsあろうと、そのダイナミックレンジを必ずいつも使わなければならないわけ‥‥ではないです。やっぱり、人間が普通に見ていられる明るさや、落ち着いて鑑賞できる彩度の収まりは、モニタやテレビがHDRに変わっても同じですもん。

 

HDRに変わったからといって、アクセルペダルをベタ踏みしてパワー全開で走る必要などなく、余裕の走りをすれば良いのです。

 

いつでもエンジン全開で走っていたSDRは、車内に響くエンジン音もうるさく振動も絶え間なかったでしょう。しかし、ちょっと踏むだけでスル〜っと走り出すHDRなら、様々な部分に余裕が生じてストレスなく映像を鑑賞することができます。

 

 

16馬力のスバル360から、100馬力のフィットに乗り換えたら、「100馬力を操作する」運転に切り替える必要があります。100馬力を街中でフルに使い切る必要はなく、0から100の馬力の範囲をうまく使いこなせば良いです。

 

 

「映像のドライバー」視点で言えば、16馬力から100馬力に進化して、その馬力を何に使うか‥‥ということです。

 

HDRの出始めは、「こんなに鮮やかでっせー」「こんなにハイコントラストでっせー」とアピールするでしょう。ちょうど、新型車がテストコースで高速性能を披露するように。

 

しかし、HDRの真髄は、たっぷりと余裕のある色域で、今までとは別次元の快適性をユーザに提供することです。

 

16馬力のSDRでは息切れして到達できなかった山頂のハイウェイから、見たことのない美しい景色をHDRは見せてくれるでしょう。

 

 

100馬力のホンダ・フィットがお手頃価格の現代の大衆車であるのと同じく、今はイロモノ扱い・オーバースペックの揶揄の渦中にいるHDRも、やがて大衆のスタンダードになっていくでしょう。

 

技術者視点、表現者視点で言えば、新しい技術を「ハンデ」にしかできず、マイナス面しか列挙できない人は、どんな時代や場面においても、自身の技術力や表現力ではなく、単なる「現場の慣習」で仕事をするだけの人です。「現場の慣習」で物事をジャッジするような人間は、自力では新しい未来など到底切り拓けないし、むしろレッドオーシャンの引き金にもなるような類いの人間‥‥とも言えます。

 

HDRを前にした時、自分の「素性」が自己診断できる‥‥とも言えますネ。

 

 

技術者、表現者たるもの、妙な作業慣習の色眼鏡で新技術を過小評価するのではなく、良い要素も悪い要素もフラットに見定め、悪い要素を抑制し、良い要素を拡張して、今までとは意識の異なる新しい次元の作品作りを目指せば良い‥‥と思います。

 

新技術は、新しい武器にしてこそ‥‥です。

 

 

 



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