マッハ・バスター

私は小さい頃、なぜ「プロペラ機は音速を超えられないのだろう」と不思議でした。零戦のエンジンは1000馬力少々で時速500km以上の速度性能がありましたが、その後、エンジンは2000馬力を実現し時速700km以上の最高速を叩き出す機体が数多く出現しました。‥‥が、その後は停滞し、時速800kmを越える機体はほとんど出現しませんでした。エンジンはそれこそ、驚異の3000馬力はおろか最終的には4000馬力を上回るもの(R-4360。28気筒、排気量71,500cc、プラグは54個!)さえ登場したのに‥‥です。

 

軒並み、時速700km台で停滞し、やがてジェットの時代へと移行しました。

 

*レアベア。時速800km台を誇る、アメリカンクオリティの真骨頂。その出自は太平洋戦争当時、零戦(に代表される日本の格闘戦闘機)の対抗馬として、速度性能、格闘性能、武装などあらゆる「戦闘機としての資質」を追い求めたF8Fベアキャットであり、その後、レーサー改造機として「レシプロ最速」の栄誉を手にしました。オリジナルのベアキャットは、結局、対日戦には間に合わず、我々日本人としては不幸中の幸い‥‥とも言えます。しかし、戦争が終わったことで、「戦闘機過ぎるプロペラ機」は汎用性に乏しく、かといって新時代の空に情勢にも追随できず、早々に第一線から退役していきました。

 

*こちらも「熊」、Tu-95「ベア」です。プロペラは付いていますがピストンエンジンではなくジェットエンジンでプロペラを回転させる仕組みの「ターボプロップ」エンジンです。最高速は900km以上と、プロペラ機としては最速の部類です。

 

なぜ、プロペラ機は800km前後で停滞したのか。ものすごく大雑把にいうと、「物理構造的な頭打ち」に到達したからです。

 

Wikipediaからの引用です。

 

プロペラ機は原理的にジェット機よりも遥かに低い速度で限界に達する。より大きな推力を得ようとしてエンジンの出力を上げてプロペラの回転速度を上げたところで、プロペラ先端速度が音速に近づくにつれ衝撃波が発生し、その衝撃波をつくりだすのに回転力が奪われて抵抗が増し、エネルギー効率が著しく減少するからである。

 

衝撃波なんて言われてもアレ‥‥なので、身近な例えですと、東京のとある住宅で、台所の蛇口からやかんに水を注いでガスレンジの火にかけても、熱湯の温度は100度以上にはならない‥‥というのと似ています。どんなに強い火にかけても、100度以上にはなりません。条件的、物理的、そして構造的な限界です。‥‥ちなみに、圧力鍋ですと、圧力で沸点が変化して、120度くらいにはなるようです。

 

要は、どんなにがむしゃらにパワーを加えても、台所のやかんで100度以上の熱湯にはならないのと同じく、ピストンエンジンのプロペラでは時速800kmあたりが限界‥‥ということのようです。パワー不足が原因ではないのです。

 

 

これって、現在のアニメ制作現場の話、そのものです。

 

アニメ制作現場全体を「作品作り」のための「推進力」として考えた場合、まさに超えがたい「音速の壁」に直面しているように思います。音速とはすなわち、「次世代の映像技術」そして「労働の形態」です。

 

今のアニメ制作現場が4K60pに対応するには、手描きで絵を一枚ずつ動かすという基本技術ゆえに、実質不可能で、アップコンしか手立てはありません。また、各所で「ブラック」と呼ばれる現場の状況を改善するのは、どこの何を細かく調整して改善したところで、現場の運用設計自体がブラックを生み出す発生装置のようなものなので、根本的な改善は不可能です。

 

つまり、現在のアニメ制作現場には、

 

映像技術の壁

労働基準の壁

 

‥‥の強固な壁が大きくそびえて立ちはだかっていますが、それは実は、「プロペラ機がプロペラを回転させるがゆえに、音速を超えられない」のと同じく、「今までの作画アニメ現場は、作画〜撮影に至る工程で制作するがゆえに、映像技術と労働基準の壁を超えられない」のです。

 

プロペラ機は、プロペラで推進しようとするがゆえに、音速を超えられない。

 

アニメは、作画して動かそうとするがゆえに、2K24pの枠を乗り越えられない。

 

呪わしい気分になってきます。自分が自分であるがゆえに、自分の限界を超えられない‥‥という。

 

 

私はもうハッキリと覚悟したことがあって、「現在のアニメ制作現場は、未来も変わることはない。変えることは不可能だ。」ということです。「制作現場の物理構造」からして、どうやっても「次世代の映像フォーマット」には追随できないし、ブラックなどと言われる労働状態を改善することも不可能だと思うからです。

 

だってさ‥‥、これから先の未来、映像の高品質化に合わせて、A3の作画用紙で1万枚とかテレビシリーズで可能? 緻密なキャラデザインの作画をペンタブで3〜4Kサイズで1万枚とか描き続けられる? そしてその作業報酬は最悪の場合据え置きで、良くても1.5〜2倍程度‥‥で生活が成り立つ?

 

ダメじゃん。無理じゃん。電卓で計算すればすぐにわかることじゃん。

 

今でさえ、A4用紙の150dpiの3コマ作画ですら、ひーひー悲鳴上げてるのに、これ以上、現場の現状に、高品質化が重くのしかかる‥‥なんて、可能だという人がいたら、合理的に説明していただきたい。2K24pの今ですらブラックだ‥‥なんて言われてる現場が、4K60pなんて作りきれるはずがなく、ブラックを通り越してスーパーマッシブブラックホールになってしまいます。

 

劣勢挽回の必勝兵器なんて、いつまでたっても登場しないですよ。あるのはアップコンに頼るしかない、心細い未来だけです。

 

 

* * *

 

 

プロペラ機が音速を超えられないのと同様、今のアニメ業界の制作現場は次世代を乗り越えられないのです。

 

どんなに現場の人間たちがパワーを振り絞っても、次世代の映像フォーマットに適応することは、旧来の制作現場の作り方では「無理」です。キモチとかやる気の問題ではなく、物理的に無理なのです。感情に支配されずに、クールに分析すべきです。

 

 

でも、です。

 

現在、世界中の飛行機がジェット機になったわけではない‥‥ことを考えれば、旧来のアニメ制作現場の方式も、まるでダメというわけではないです。現在でもプロペラ機は世界中で飛び回っています。

 

つまり、旧来のアニメ制作を維持するのであれば、「壁を乗り越えずに、このまま停まれば良い」のです。明確に「次世代を無視」すれば良いのです。

 

昔の技術のまま、現代にもてはやされる時代の寵児でいたい‥‥なんて、甘い夢を見ようとすれば、その夢は技術革新の中で無残に打ち果たされて破れるでしょう。

 

しかし、昔の技術のどこが悪い。魅力的な要素もたくさんあるんだ。‥‥と、自分たちの技術の「本質」を見極めて、その本質で「商売」を展開すれば、技術が移り変わった未来においても、何かを掴める可能性はあると思います。

 

世の中の誰もが必ず新しもの好きなわけではないですから、商売の考え方を「現代に生きるのをやめて、古き良きアニメ」へと転換すれば、成立する可能性は残されています。

 

時代に翻弄されることから離れ、現代と決別し、伝統芸能として覚悟する‥‥というのも、考え方の1つでしょう。

 

「自分らの映像基準は不動だ。新しいものへの対応は、フォーマットのコンバートでいい」と言い切れるほどの、肝の座った覚悟があるか否か、‥‥です。

 

 

* * *

 

 

私は‥‥といえば、ずっとここでも書き続けているように、「壁を超える技術」=次世代映像技術にどんどん邁進する所存です。現状から抜け出して、壁の向こうの新天地を目指したいからです。

 

もちろん、壁の向こうが楽園だなんて保証はありません。しかし、30年業界で働いてきて、もうじゅうぶん、業界の構造=壁のこちら側の限界も見極めました。どっちに居ようが、保証された楽園など、あろうはずがない‥‥です。

 

だったら、「良き方向へ変えられる可能性のある」壁の向こう側を目指したいわけです。

 

 

壁の向こう側に行くためには、とにかく、壁を越える技術を確立していくことです。ボーっと壁を眺めてたって、壁は高くそびえ立ったままです。

 

かつて、超えられない壁を超えた人々の歴史が、私にとっての指針でもあり、励ましでもあるのです。

 

 

 

 

 

 



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