ノスタルジーとの天秤

私は20代の頃にバイクを毎日のように乗っており、特に2ストロークエンジンのバイクを愛好しておりました。今にして思えば、燃費は悪いし、排気ガスは多い、色々と問題の多いエンジンでしたが、一方で、出力特性は圧倒的なものがあり、現代の250ccのバイクが軒並み20馬力程度で高めでも30馬力ちょいなのに、2ストは最低40馬力、ちょっとカスタムすれば60馬力は叩き出す豪快な出力を有しておりました。

 

その大馬力、大出力を、いかに扱って操縦するかが、たまらなく魅力だったのです。もし、時代が逆戻りして許されるならば、今でも2ストのバイクに乗りたいと思います。マイルドな4ストに比べて、ピーキー(高回転域でパワーが炸裂する)なエンジン特性も、じゃじゃ馬を乗りこなす快感に満ちていました。RMX、TDR、KDX、ガンマ、NSR、SDR、etc...。

 

でも、今はもう許されないのです。あえて乗りたいとは思いません。ヨボヨボに疲れ果てた中古車2ストの吹け上がらないエンジンは、逆に虚しく切なく悲しくなります。2ストは記憶の中のイメージ、「あの時代でしか得られなかった、格別の体験」として、大事にとっておきます。

 

まあ、数十万円かけてレストアして、民家から離れた私有地のコース(公道ではない場所)を走るぶんにはOKでしょうし、部品供給も怪しくなってきた旧車を労って細々と乗るぶんには許容されるでしょうが、2ストの新車が出ることはないでしょう。

 

戦後の経済成長と技術更新の勢い、豊かさを手にできるようになった社会‥‥と、様々な時代の移り変わりの中で、手にできた「旬のもの」だったのです。恒久的なものでは決してなかったのです。

 

燃費効率が著しく劣り、加速すれば白煙とエンジンオイルを撒き散らすようなシロモノは、今の社会に適さないのです。

 

これはもう、どうしようもないです。

 

俺はサムライだ。廃刀令なんかクソくらえだ。‥‥なんて反発しても、時代が「刀を不要」とする流れに変わっていくのなら、ただ浮いた存在になっていくだけです。浮くだけならまだしも、社会の「敵」なんて思われ始めたら、厄介至極です。

 

アニメの制作も似たような状況です。

 

前世紀にはOKだった「人の使い方」が、もうそろそろNGになってきているのだと思います。ゆえにブラックなどと揶揄されるのです。

 

「時代の流れに負けるのか」と口惜しい人もいるかも知れませんが、その通り、負けるのです。70年代に本格化したテレビアニメの作り方は、言うなれば「2スト的人材雇用」であり、もはや時代に適さないのでしょう。

 

「人間の労働力」という「産業の燃料」とも言うべきリソースを、非効率極まりない「悪燃費」によって、野放図に消費していく‥‥というやり方は、もう2020年代の日本では「アウト」なのです。その現実を直視できるか否かで、アニメ制作現場のありかたも、人間の使い方も変わってきましょう。

 

 

ノスタルジーは私にだって抱えきれないほどあります。70年代のアニメを見て、アニメを作りたいと熱烈に思い込んだ少年時代だったのですから。

 

でも、ノスタルジーと現代の人材雇用を天秤にかけて、ノスタルジーが勝ることはありません。現代の人材を内包する社会の流れを、うまく活用することを最優先に考えます。決して、拒否るのではなくネ。

 

 

正直に言いますと、2ストは2ストでしか得られない、唯一無比の快感があります。それは何を代替にもってこようと、代われるものではありません。紙に鉛筆で描いて1枚ずつ動かすアニメ制作技法も同じで、それにとって代われるものなどありません。

 

しかし、その存在自体が、現代に合わないのです。

 

今でも2ストエンジンで、排ガス規制に適応したバイクは作れるらしいです。しかし、そのコストは半端なく、とても「売り物にならない」=産業製品として成立しないんだそうです。

 

思うに、紙に鉛筆で描いて1枚ずつ動かすアニメ制作技法を採用するのなら、1分500万のコスト、10分で5000万、100分で5億くらいの制作費は必要だと思いますヨ。現代の労働の基準にあてはめて、技術職として各スタッフのコスト計算をするのならね。

 

で、それで成り立ちますかね? 無理ですよネ。鳴り物入りの特別な大型企画でしか実現できないでしょう。

 

その「無理」を、70年代テイストを引きずった生産コスト感覚で相殺して、各スタッフに強いて作り続けているのが、旧来アニメ制作技法と現場です。私はやがて、その「無理」は破綻する時がやってくると思っています。「社会の敵」のように認識されてネ。

 

新人スタッフは親元から離れて「社会人」として現場に入ってきますが、親がまず「現場の悪評」ゆえにアニメの現場に入ることを許さなくなるでしょう。「現場」の状況はNHKでも報道されましたし、今はネットで色んな情報が得られますから、特に家を継ぐ立場の人間のアニメ業界入りは敬遠されるんじゃないですかネ。

 

アニメ業界人のノスタルジーに、いつまで世間が付き合ってくれているのか、考えてみたことはありますか。

 

付き合いきれなくなっているから、ブラック労働だ何だと取り上げられているんじゃないですかネ。

 

 

アニメ制作の事業に関して、未来とノスタルジーを天秤にかけるのなら、私は迷わず即決で未来を取ります。

 

ノスタルジーは天秤から降ろして心の中に大事にしまっておけば良いのです。懐かしくてたまらなくなったら、アマゾンで配信している昔の東映アニメでも見ます。

 

ノスタルジーを現場に持ち出す必要はない‥‥と思います。

 

 

 

ちなみに‥‥、バイク業界紙の関係筋によりますと、今年(2017年)もまた、排ガス規制が実施され、多くのバイクが生産終了になるようです。ホント、ぶっちゃけ、規制にがんじがらめの20馬力のプアパワーバイクなんて、乗る気がしない‥‥とは思いますが、一方で、プアなパワーであっても、もっと他のバイクの要素を楽しんでも良いのかな‥‥と思い始めている自分もいたります。

 

2ストの時代はある意味乱暴な時代ではありましたが、やっぱり懐かしく想う郷愁は否定できません。あの時代のあのパワー感は、2020年代に、他の形に姿を変えて、アニメ作品制作の中で具現化したいと思います。ノスタルジーではなく、新たなドクトリンとして。

 

 


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